トップ > プーアル茶を比べて選ぶ > プーアル茶の年を比べる > 生茶の熟成度の違いを見る
生茶の熟成度の違いを見る
プーアル茶といえば熟成によりその味が変わって行くことがその妙味とされます。
今回飲み比べたお茶は昌泰茶業のフラッグシップモデル易昌號の1999年、2002年、2007年産となります。
- 易昌號について
- 易昌號は易武山の野生茶葉を使用して作られたお茶です。
中華民国成立以降、プーアル茶作りは政府の管理下で行われていました。管理生産が始まった1970年代頃は易武山の最高級茶葉を使用したプーアル茶作りがされていましたが、その後文化大革命などの影響でその効率の悪い贅沢品である高級プーアル茶の生産はだんだんと少なくなり1990年代後半には途絶えていました。
そんな中、昌泰茶業の創立者陳世懷と張芸林は1999年昌泰茶行を創立し、その翌年1999年、最初の易昌號を世に送り出します。
今では考えられないことですが、当時は野生茶葉の価格は茶園茶葉よりも低く、二人はそんな誰も目を付けていない易武山の野生茶葉を使用してプーアル茶を作ります。そのため出来上がった易昌號のお茶のクオリティーは最高で販売開始とともに香港、台湾で一世を風靡し、瞬く間に昌泰茶業の評判を上げました。現在の野生茶ブームの火付け役ともいえます。
それ以降昌泰茶業は易昌號を毎年作り続けています。このお茶の評価は「口感豊富、茶韻十足」とされ、その豊かな味わいと、リッチな風味で表され、その評判はますます不動の物となっています。 - 易昌號のグレードは極品、精品、正品となっていましたが、2007年より行政により極品の使用が禁止されたので現在では珍品、精品、正品となっております。どれも易武山の茶葉を使用していますが、その違いは茶樹と茶葉にあります。極品(珍品)は野生喬木の一芽二葉茶葉のみを使用しているのに対し、精品は野生喬木、野放喬木の一芽二葉までを使用しています。そして正品は野生喬木と野放喬木の一芽三葉までとなっております。
- 今回比較するお茶
- 今回比較するお茶は熟成の違いで3種類です。
- 1999年と2007年は最高級グレード、2002年は精品となっております。
保存条件は99年易昌號極品は香港で熟成された後、昌泰茶業本店の乾倉に移され熟成させられていた物を社長の陳世懷が2007年に蔵出しした物です。一方02年易昌號精品と07年易昌號珍品は製造後通常の出荷のタイミングで深センの倉庫で保管されているとのことです。 - 茶葉の外見
- となります。
- どれもすばらしい茶葉が使用されているのがわかりますが、07年の易昌號珍品の表面はやや平面的で揉捻が弱い印象を受けます。02年易昌號精品、99年易昌號極品は茶葉が乾燥して茶葉と茶葉の間に隙間が見えてきています。
- 裏面を見ると乾燥していることがもう少しわかりやすいでしょうか。茶葉の色も07年易昌號珍品が暗緑色に対し、99年易昌號極品はより赤色、茶色が強くなっています。この写真からは少し見にくいかもしれませんが、99年易昌號極品は一回り小さく、07年は一回り大きくなっています。07年は一餅400gなので一回り大きくなります。02年、99年はともに357gですが、99易昌號の面白いところは、昌泰茶業がプーアル茶を作るのはこれが初めてだったため、生産手順にあやふやなところがあってその大きさにはムラがあり、またこのムラがあるというところが99年易昌號の鑑定ポイントともなっています。
- お茶を入れる
- 生茶の水色は黄金色からだんだんとオレンジ味が強くなり、そして褐色へと変化していきます。今回の例でもその通りに年ごとに見事に色が変わって行っています。
写真は左から となっています。
07年の易昌號珍品は昌泰の生茶らしいオレンジがかった黄色です。それが02年易昌號精品になると褐色が強くなり、そして99年易昌號極品は見事に栗色へと変化していっています。水色はどれも透明感がありますが、99易昌號が特に澄んでいるように思われます。
香りと味の変化も見事です。07年易昌號珍品はまだ若い生茶の香りと味で強い蘭香と苦味のあるお茶らしい味です。それが02年易昌號精品になると苦味は一歩下がり、味はまろやかになり香りも蘭香が控えめになり、それにかわりバニラ香とそして陳香を香りの中に感じます。そして99年易昌號極品になると見事な陳香が一番の香り、そして味も苦味渋味は奥へひき、まるで違う味へと変貌しますがそれでも易武山茶葉の風味はどのプーアル茶もしっかりと持っています。
99年易昌號極品と07年易昌號珍品と比べるとまるで違う味になるのですが、02年易昌號精品をその間におくとしっかりと二つの易昌號の味を結んだ直線上にのあることがわかります。99年易昌號極品と02年易昌號精品と比べると02年易昌號精品からも陳香を感じますが、99年易昌號極品の香りは3年の違いとは思えないほど特徴的な香りへと変化しています。保存条件の違いが風味の変化の度合いの違いを作り出しているのでしょう。 - 葉底の確認
- 左から
となります。 - 葉底を見ると熟成度の違いが一目で分かります。一番左の'07易昌號珍品は茶葉がまだ緑を多く残しています。そして、'02易昌號精品は'07易昌號に比べると茶色くなっていますがまだ緑色を残しています。しかし、一番右の'99易昌號極品になると茶葉のほぼ全体が茶色でその茶色の色も濃くなっています。
- そしてさらに茶葉を細かく見るとその違いがよくわかります。'07易昌號珍品は茶葉にまだ瑞々が残っていますが、'99易昌號極品になると茶葉は固くなっていてその分茶葉を広げるのに苦労しました。そして、茶葉によっては分解が進み、崩れ始めているところも見受けられます。そして'02易昌號はまさにその中間といった感じで茶色く変色している茶葉がとまだ緑を残している茶葉が半々といった感じです。
熟成度以外に目を向けると、まず、茶葉のブレンドですが、どれも易昌號らしいブレンドで、目と葉と茎が程よくブレンドされています。どれも大振りの若葉を使用してあります。とはいえ違いも見受けられます。最高級である極品、珍品易昌號はイレギュラーな巨大な茶葉を見ることが有りますが、精品である'02易武昌號は茶葉は十分に大きいけれども粒ぞろいといった感じで茶葉のサイズがまとまっています。今回の茶葉には見られませんでしたが、特に'99易昌號はびっくりするほどのサイズの茶葉を使用していることがあるのでその辺りに精品と極品、珍品の違いが見られます。 - まとめ
- これまでそれぞれのお茶を個別に飲んでその違いを感じていましたが、こうして比べてのむことでその違いの奥にある傾向をしっかりと感じることができ非常に興味深い飲み比べでした。
どのお茶も年による違いがありますが、同様のプロファイルをもったお茶です。それらのお茶が年数を経てその見た目、香り、味わいすべての面においてここまで違うのかと驚かされます。
水色は年を重ねた物ほど色が濃く、そして栗色へと変色して行きます。そして茶葉も年を重ねた物ほど陳化を重ね、色は褐色へ変わって行きます。その結果、その香り、味ともに陳年茶らしさを重ねて行き、新しい物とふるい物を比べるとこれが同じ物とは思えないほどの変化を感じることができます。
この三つの易昌號の飲み比べは茶葉の熟成の仕方を理解するのには最高の組み合わせといえるのではないでしょうか。そして、改めて易昌號易武七子餅茶 極品 1999年のお茶のおいしさを再確認する飲み比べでした。