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プーアル茶をいろいろな水で入れてみる
お茶を入れるときは軟水の方ががいいと言われています。実際、水の違いによってプーアル茶の味は大きく変わります。とは言うものの水の種類によってどのように、どの位、変わるのかはやってみなくては分かりません。 ということで、ここではそんな実験をしてみました。
水について
水は大きく分類すると「軟水」と「硬水」に分けられます。これは、水に含まれるミネラル量を指す”硬度”による分類です。カルシウムやマグネシウムといったミネラルを多く含む水は硬水、少なければ軟水と呼ばれます。硬水と軟水では含まれている物が違うので味も違えば、性質も違ってきます。
日本の水は軟水、ヨーロッパの水は硬水が多いと言われています。中国の水は日本よりも硬度が高めの軟水と言われていますが、場所によって様々です。
使用した水
ということでプーアルカフェでは水によるお茶の味の違いを実験してみました。水の種類はそれこそ無限にあるので、今回は日本で手に入れやすい水で試してみました。使用した水は以下の通りです。
水の種類 | 硬度 | 硫黄 | ph | ナトリウム(mg) | カルシウム(mg) | マグネシウム(mg) | カリウム(mg) |
南アルプス天然水 | 30 | n/a | 6.7 | 6.5 | 9.7 | 1.5 | 2.8 |
ボルビック | 60 | n/a | 7.0 | 11.6 | 11.5 | 8.0 | 6.2 |
エビアン | 304 | 10 | 7.2 | 7.0 | 80.0 | 26.0 | 5.7 |
コントレックス | 1468 | 560 | 7.4 | 4.7 | 234.0 | 37.3 | 1.4 |
クールマイヨール | 1612 | 1480 | 7.4 | 0.8 | 530.0 | 70.0 | 2.0 |
エビアン以下は硬水となります。
ちなみに日本の水道水の硬度は地域によって異なりますが、だいたい30~90で軟水~軟硬水となります。
実験の内容は「それぞれの水を使ってお茶を入れて味、その他を見る」というとても簡単なものです。
使用したお茶
今回使用したお茶は以下の2品です。
それぞれ、
左:生茶、昌泰茶業 易昌號珍品2007年
右:熟茶、六大茶山 雲南七子餅茶特級品
易昌號は「生茶の昌泰」の最高級生茶で、とても出来のよい易武山のお茶です。雲南七子餅茶特級品は六大茶山の標準熟茶の特級品。香り高く非常に飲み易い初心者にもお勧めの一品です。
さて、それでは実験を見てみましょう。
実験方法は、同じ量の茶葉を一度洗茶したあとの2煎を混ぜて使用しています。
それぞれ上が熟茶、下が生茶となっております。一番硬度の低いサントリー天然水が一番右側、そこから硬度の低い物順に並べてみました。
こうして比べてみて気付くのは水色の違いではないでしょうか。ということで、生茶と熟茶をそれぞれ比べてみてみましょう。
水色のチェック
まずは生茶です。
12時の位置にあるのがサントリー天然水で、そこから硬度が低い順に時計回りでボルビック、エビアン、コントレックス、クールマイヨールとなります。
この写真だとコントレックスが緑がかっているのがお分かりになるでしょうか。その他はエビアンが濃く出ていてサントリー天然水は薄めなことが分かります。
生茶の色の濃さはエビアン>コントレックス>クールマイヨール>ボルビック>サントリー天然水となっています。
次に熟茶です。
こちらも順序は一緒。上から時計回りにサントリー天然水、ボルビック、エビアン、コントレックス、クールマイヨールとなります。サントリー天然水とクールマイヨールは薄めで、クールマイヨールは透明度が低め。エビアンはかなり濃く出ていて、ボルビックは少し濃いめに出ているのが分かると思います。そしてコントレックスは濃いめですが、水面に何かが浮いているのが確認できます。
フラッシュを焚いてみました。コントレックスの上の結晶がよく見えるのではないでしょうか。
熟茶の水色の濃さはエビアン>コントレックス>ボルビック>クールマイヨール>サントリー天然水となります。
味チェック
まずはサントリー天然水。
硬度は30なので一番の軟水となります。
おいしい水だけあって、おいしいお茶が入りました。普段飲んでいるお茶と同じ味なので我が家のボトルウォーターも同程度の硬度なのでしょうか。水色はいつもと変わらぬ色合いで透明感があります。
次にボルビックです。
料理用の水としても評判の高いボルビック、何か違いが見えるでしょうか。ボルビックは硬度60の軟水です。
味わいは……。これは、うまい!!
ボルビックで入れたお茶は、通常よりこくがあって甘みも強く感じます。そして何よりも、まろやかになりました。特に生茶の尖った感じの苦味をうまく丸くしています。これは素直に美味しくなったと言えます。
俄然盛り上がって参りました。期待できます。どんどんいきましょう。次はおなじみ元祖フランスのおいしい水、エビアンです。
硬度は300で中硬水です。
入れてみると水色がずいぶん濃いエビアン。さて、味も濃いのでしょうか?
味もよく出ています。しかし、それ以上にとてもまろやかになっています。まろやかすぎてお茶のバランスが崩れてせっかくのお茶の風味が押さえ込まれている感があります。
ちょっと雲行きが怪しくなりましたが、水による違いがあるのは間違いありません。次いきます。
コントレックスで硬度は1468!の超硬水です。
コントレックスはダイエット効果のある水として知られていますが、本当は特にダイエット効果があるわけではなく、含まれるミネラルが多いので、ダイエット時に不足しがちなミネラル分を補給しましょうというお水です。
写真ではよく分からないかもしれませんが水色は濃いめ。というか何かおかしい。特に生茶……。
何やら緑がかっています。そして、それ以上に何やら質感が変。透明度が低く何かが結晶化している感じ? なんだろう……。
ともあれ味チェック。
……ひどい。
生茶も熟茶も滑らかになり過ぎて、コントレックスそのものの味が混ざり、もはや別の飲み物。というか飲み物として、おかしなことになっています。これは間違いなくお勧めできない。
と、味見をしてから気づくと……。
水の表面に結晶が出ている!
コントレックスのミネラル分がお茶成分(タンニン?)と反応して析出してきたのでしょうか。これでさらにもう一回り、まずそうになりました。
さて、気を取り直して最後の水です。
最後を飾るのはクールマイヨール、硬度1612と最硬度。イタリアの天然水なのでミロのヴィーナスが描かれています。特徴は高硬度にも関わらずナトリウムが低いので飲み易い超硬水です。
水色はサントリーの天然水に近く標準的な色です。さて肝心の味は……。
まろやか。エビアンを、さらにまろやかにした感じです。しかしまろやか過ぎて生茶らしさが失われており、別の味に変えてしまっています。熟茶も同様に滑らかになっていますが、これはこれでありといえるのでしょうか……
いやいや、なんの変哲も無い水色とコントレックスのひどさに錯誤してしまっているだけで冷静に考えたら「無し」です。どちらもおかしな味です。
と、これもよく見たら微妙に結晶が出ています。やはり「無し」ですね。
以上5つの試飲結果をまとめます。
水の種類 | 水色 | 味 | その他 |
南アルプス天然水 | 色は薄め、透明感もある | あっさりさっぱりとしている | 普通の飲み口。美味しい水の分美味しいお茶です。 |
ボルビック | 天然水に比べるとやや濃い | 味がややよくが出て、まろやかさを感じる | おいしい。こくが出ている感じで生茶熟茶ともにオススメ。 |
エビアン | 濃い。やけによく出る | 味も良く出るがまろみもとてもつよくなる。お茶のバランスを崩している。 | とても濃く出る。他の水と同じ条件で出しているので圧倒的にこい。中硬水 |
コントレックス | 結晶が見られる。色も緑がかっている透明度も低い | まろやかすぎる。それ以上に見た目が悪くておいしく飲めない | ひどいのひとこと。水色の悪さ、水の表面に浮かぶ結晶、まろやかすぎる味。すべてにおいて驚きの結果。 |
クールマイヨール | 水道水と同じ色合いだが透明感がやや低め。結晶も少々見られる | まろやかすぎる。しかし熟茶の風味にはありかなとも思える | とてもまろやかに出る。元々の水の味にクセがあるのでその影響も大きい。熟茶にはありかもしれないが生茶にはあり得ない。お勧めしない。 |
考察と結論
お茶を飲むには軟水がよいとされますが、実験結果ではそれを確認することができました。そして「水による味の違い」での考察にそった結果となりました。
軟水である南アルプス天然水とボルビックでは、どちらもおいしいお茶を入れることができ、特にボルビックでは、いつもとひと味違うおいしいお茶を入れることができます。一方、硬水に属するエビアン、コントレックス、クールマイヨールではお茶の味が壊されてしまい、プーアルカフェとしてはお勧めできない結果が出ました。
今回の実験ではテストした水がほんの5種類で、その硬度も偏っていたので味の違い=硬度の違いであるか、ということについては結論づけられません。とはいえ、硬度が上がるにつれてお茶のまろやかさが強くなり、苦味などの角を取るという傾向が見られたことは、予想にそった結果です。
おいしく飲めた軟水のサントリー天然水とボルビックは硬度がそれぞれ30と60でした。特にボルビックではおいしいお茶を入れることができました。
ちなみに、東京都水道局によると硬度100以下の水がおいしい水とされていますので、その範囲での“おいしい水”であれば“おいしいお茶”を入れることができるのかもしれません。なので、日本の水道水は一部の地域を除いて軟水。つまり、一部の地域を除いてお茶をおいしく飲めると考えてよいでしょう。それでも地域によって硬度には差があり、その差はサントリー天然水とボルビックの違い以上。つまり、水道水を使って入れた場合には、地域によってお茶の味が変わってくるということも推測できます。
更なる実験として、もっとさまざまな硬度の軟水を用意して実験するべきかと考えています。サントリー天然水とボルビックには確かに味の差があり、ボルビックの美味しさは特筆すべき物がありました。さらにいろいろな硬度の水についてテストを行うことは非常に興味深い実験になりそうです。
エビアンで抽出したお茶が濃く出たということにたいしては、再現実験が必要であると感じています。とはいえ、結局は味のバランス崩れてしまい、美味しくはないため、その必要はないかもしれません。
超硬水であるコントレックスとクールマイヨールについては、化学的にはなかなか興味深い結果(あとがきもお読みください)が出ました。しかし、お茶の味をチェックする実験としては全くもって論外の一言でした。
以上、簡単な実験を行いましたが、おいしい水の多い日本では日常は特にこだわらず普通の水道水でいただいて、問題は無いと思われます。ただ、ちょっとこだわってお茶を入れるときはボルビックなどの、おいしい水を使うと良いのかなと思います。
(後述の後日談も読んでみてください)
あとがき
このテストをやるのは結構手間がかかって結局3時間もかかってしまいました。終わったとき達成感と疲れで後片付けを放っておいてしまいました。
それがこんなことになるなんて……
実験終了5時間後。後片付けを始めると……
!!これは一体?
5時間放置されていたお茶達に異変が。これらはすべて硬水。上が生茶で下が熟茶です。左から順にエビアン、コントレックスそしてクールマイヨールとなっています。
エビアン熟茶です。試飲のときは何も出ていませんでしたが時間が経った後はきれいな虹色になっています。
コントレックス熟茶です。試飲のときから結晶が出ていましたが、時間が経った後はずいぶんと成長しています。うーん、飲みたくない。
クールマイヨール熟茶です。入れたときはごくわずかだったのですが、時間が経った後は結晶が見えるようになりました。
コントレックス生茶です。熟茶に劣らず見事に結晶が成長しています。
クールマイヨール生茶です。入れたときはかすかに感じられる物があったのですが、時間が経ちはっきりと姿を現しました。
これらの現象は水のミネラル分とお茶成分(タンニン)が反応して塩を生成したために発生したと考えられます。陽イオンの多い硬水であれば何かが起こるだろうということは予想していましたが、まさかこんなはっきりとした形で見ることができると言うことは予想外でした。
後日談
水のテストをした後、さらに幾つかのミネラルウォーターで調査をしました。
日本では手に入らない中国のミネラルウォーターだったのでとくに写真などは撮りませんでしたが、どうやら硬度50~80あたりの水が特においしく飲めるようです。
硬度が60ぐらいの水がお茶の味を十分に引き出し、苦味、渋味を程よく丸くしてくれるようです。なのでボルビックで入れたお茶がおいしく飲めたのも納得の結果ですね。
ここまでやるとさらに気になったので、飲み比べの結果は伏せた上で、日本の友人に調査を頼みました。彼は丁寧にも日本の幾つかの地域の水道水を集めて飲み比べをしてくれました。
使用した水道水は東京、北海道、群馬、静岡、岡山の水でその硬度は水道局によるとそれぞれ46、38、38、76、56となります。
その結果、やはり硬度高めの水でおいしいお茶を入れることができました。
どうやら、やや硬度高めの軟水がベストなようです。あらためて実験して確かめたいこととしては、どの程度の硬度から、お茶の味が壊れ始めるのか、という部分です。
やってみたら、思っていたよりもさらに奥の深そうな水比べ。皆様も機会がありましたら、ぜひいろいろな水でお茶を飲み比べて見てください。